技能実習・特定技能の外国人材を採用する際、現地国での募集や人材の紹介をしてくれる「送り出し機関」は、非常に重要な存在です。
国内外の書類手続きだけでなく、受け入れ企業がスムーズに外国人材と就労契約を結べるようサポートする役割も担っています。
しかし、一部には悪質な送り出し機関もあり、トラブルに発展するケースもあるので注意が必要です。
そこで本記事では、送り出し機関の基本的な役割から費用相場、選ぶ際の注意点まで、外国人採用時に必要となる情報をまとめました。
ベトナムやミャンマー、フィリピンなど主要国の送り出し機関に関する独自ルールもまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
1. 特定技能における送り出し機関の役割
特定技能制度では、基本的に送り出し機関の利用は必須ではありません。
しかし、海外に支社がない場合や外国人採用に不慣れな企業の場合は、送り出し機関を利用したほうがスムーズに採用できるでしょう。
なお、特定技能における送り出し機関の主な役割は、以下のとおりです。
- 特定技能外国人の募集・選考
- 日本語・技術試験の合否確認
- 日本の受け入れ機関に紹介
特定技能では、一部の国を除き送り出し機関を介さない直接採用も可能です。
しかし、言語の壁や文化的な違いを考慮すると、送り出し機関で募集・選考・紹介などのサポートを受けられるのは、大きなメリットといえるでしょう。
なお、特定技能に関する「二国間協定」を締結している一部の国では、指定の送り出し機関の利用が必須の場合もあります。
(1) 二国間協定を締結している国
特定技能制度では、外国人材の保護と適正な送り出し・受入れを目的として、日本政府は一部の国と「二国間協定」を締結しています。
二国間協定の締結国は以下のとおりです(2025年3月現在)。
上記の国からの特定技能外国人の受け入れには、二国間協定に基づいた手続きが必要です。
2. 技能実習制度では送り出し機関の利用はほぼ必須の状況
技能実習制度の受け入れ方式には「団体監理型」と「企業単独型」の2種類がありますが、団体監理型では送り出し機関の利用が必須です。
「企業単独型」の受け入れ方式の場合は送り出し機関の利用は不要ですが、技能実習生の98.3%が「団体監理型」を利用しています。
現状では、ほとんどの場合で技能実習生の受け入れ時には、送り出し機関の利用が必須といえるでしょう。
技能実習における送り出し機関の役割は、主に次の5つです。
- 技能実習生の募集・選考
- 渡航前の日本語や技能実習の目的などの教育
- 入国手続きのサポート
- 日本滞在中のサポート・トラブル対応
- 帰国手続きのサポート
3. 送り出し機関の費用・手数料はどのくらい?目安・費用相場
送り出し機関を利用する際にかかる費用は、国や地域によって異なります。
ここでは、外国人材が送り出し機関に支払う費用と、受け入れ企業側が支払う費用について、紹介します。
(1) 受け入れ企業側が支払う費用の内訳と目安
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が2024年6月に公表した「技能実習制度適正化に向けた調査研究事業 報告書」によると、受け入れ企業側の支払額には次のような傾向があります。
- 全体では「100,001~200,000円」が38.7%と最も多い
- ベトナム「100,001~200,000円」が55.0%と多い
- インドネシアでは「100,001~200,000円」が38.1%と多い
- フィリピンでは「1~50,000円(36.8%)」「300,001~500,000円(26.3%)」が多い
- カンボジアでは「100,001~200,000円」が50.0%
受け入れ企業は技能実習生1人につき、3年間の総額で平均10万円〜20万円ほどを送り出し機関に支払っています。
(2) 外国人材が送り出し機関に支払う費用の内訳と目安
出入国在留管理庁が2022年7月に公表したデータによると、外国人材が送り出し機関に支払っている費用と内訳は、下表の通りです。
国・地域 | 支払費用総額 | 派遣手数料 | 事前教育費用 | 保証金・違約金 |
ベトナム | 656,014円 | 320,272円 | 94,302円 | 29,339円 |
中国 | 578,326円 | 371,629円 | 58,831円 | 5,952円 |
カンボジア | 571,560円 | 429,788円 | 109,144円 | 14,051円 |
ミャンマー | 287,405円 | 206,627円 | 44,736円 | 3,124円 |
インドネシア | 231,412円 | 100,767円 | 60,299円 | 25,479円 |
フィリピン | 94,191円 | 10,870円 | 37,905円 | 5,783円 |
全体 | 521,065円 | 269,303円 | 73,663円 | 19,503円 |
国によって金額は大きく異なりますが、平均として総額52万円以上の費用が外国人材側に発生しています。
多くの技能実習生は、借金を負って日本へ働きに来ている状況です。
4. 送り出し機関の注意点と選び方のポイント
外国人採用をスムーズに進めつつトラブルを回避するためには、信頼できる送り出し機関を選ぶ必要があります。
ここでは選ぶ際の注意点とポイントを3つ紹介します。
(1) 悪質な送り出し機関が存在する
手数料や保証料などの名目で多額の費用を徴収する、悪質な送り出し機関も存在します。
また、技能実習生は原則として転籍が認められておらず、過酷な労働条件から離れたくても離れにくい状況です。
違約金の徴収は禁止されていますが、実際には多額の費用を要求する送り出し機関もあり、失踪する技能実習生も少なくありません。
多くの技能実習生は、送り出し機関に50万円前後を支払い、日本へ働きに来ているのが現状です。
実習生に対して適切な情報提供や、日本での生活・労働条件についての説明を行わない機関もあり、トラブルの原因にもなります。
採用後のトラブルを回避するためにも、政府認定の送り出し機関を利用するようにしましょう。
(2) 入国前の教育が不十分な場合がある
送り出し機関の質によって、入国前の日本語教育や技能研修の内容に大きな差が生じるケースがあります。
不十分な教育体制の送り出し機関を選んでしまうと、来日後の業務や生活に支障が出る可能性があるので注意が必要です。
入国前教育の質を見極めるポイントとしては、以下の点に注目しましょう。
- 日本語教育のカリキュラム内容と期間
- 担当者の日本語レベル
- 技能研修の具体的な内容
- 過去の実績・規模 など
可能であれば、教育現場の見学や過去の修了者との面談機会を設け、教育の質を実際に確認すると、採用後のミスマッチを回避しやすいでしょう。
(3) 日本に事務所がない場合、トラブルに対応できない可能性がある
送り出し機関を選ぶ際、日本国内に事務所や窓口があるかどうかも確認しましょう。
日本に拠点がない場合、時差や言語の問題でトラブル時の対応が遅れたり、コミュニケーションが困難になったりする可能性があります。
日本に拠点がある場合でも、対応するスタッフに日本語が十分に通じるかもチェックすべきポイントです。日本人スタッフが常駐していれば、スムーズにトラブルを解決しやすくなります。
トラブルが起きた場合、意思疎通や現地調整などのスピードが遅れると、業務にも大きな支障をきたします。
特に初めて外国人採用を行う企業の場合は、送り出し機関が迅速できめ細かなサポートができる対応が整っているか、確認しておくと万が一の際にも対応しやすいでしょう。
5. ベトナム・ミャンマー・フィリピンは特定技能でも送り出し機関の利用が必須
特定技能で外国人を採用する場合、基本的に送り出し機関の利用は必須ではありません。しかし、一部の国では特定技能外国人の採用時に、送り出し機関を利用する必要があります。
ここでは、ベトナム・ミャンマー・フィリピンの送り出し機関に関する独自ルールを紹介します。
(1) ベトナム
ベトナムから新たに特定技能外国人を受け入れる場合、ベトナム労働・傷病兵・社会問題省海外労働管理局(DOLAB)認定の送り出し機関の利用が必要です。
DOLABによる認定を受けた送り出し機関と労働者提供契約を締結し、DOLABの許可がなければ、人材紹介を開始できません。
また、認定送り出し機関には、在留資格取得申請時に必要となる推薦者表の発行をDOLABへ申請する役割も担っています。
ベトナムの規定は他国よりやや複雑なため、出入国在留管理庁の公式サイトにあるフローや手続きの解説PDFを確認しましょう。
(2) ミャンマー
ミャンマーの制度上、日本で働きたいミャンマー国籍の人は、ミャンマー労働・入国管理・人口省(MOLIP)に海外労働身分証明カードを申請する必要があります。
受け入れ企業側も、ミャンマー政府認定の現地送り出し機関から人材の紹介を受け、雇用契約を締結しなければなりません。
ミャンマーの規定もやや複雑なため、出入国在留管理庁の公式サイトにあるフローや手続きの解説PDFを確認しましょう。
(3) フィリピン
フィリピンの場合、日本の受入れ機関がフィリピン人を特定技能外国人として受け入れるためには、次の手続きが必要です。
- 必要書類を在東京フィリピン共和国大使館も/在大阪フィリピン共和国総領事館の移住労働者事務所(MWO)に提出
- 所定の審査を受ける
- 本国の移住労働者省(DMW)に登録
なお、特定技能での就労を希望するフィリピンの人は、DMWから海外雇用許可証(OEC)を取得し、フィリピンを出国時にOECを提示する必要があります。
フィリピンの規定は複雑なため、出入国在留管理庁の公式サイトにあるフローや手続きの解説PDFを確認した上で、フィリピン人採用に強いエージェントに相談しましょう。
6. まとめ
今回は、外国人材を日本に送り出す重要な役割を担う「送り出し機関」について、概要や役割、発生する費用相場、注意点などを紹介しました。
送り出し機関は、現地での人材募集や入国手続き、教育支援などを総合的にサポートしてもらえる反面、コストの負担が発生します。
送り出し機関の選定を誤れば、企業だけでなく外国人材もトラブルに巻き込まれる可能性があるため、サービス内容やサポート体制、実績を十分に確認しましょう。
特定技能外国人の保護を目的とした二国間協定や、国ごとの独自ルールなども把握しておくと、よりスムーズに受け入れを進められます。
外国人採用の第一歩として、信頼できる送り出し機関選びから始めてみてはいかがでしょうか。