深刻な人材不足が叫ばれるなか、優秀なIT人材を多く輩出しているウクライナで人材を確保したいと考える企業も増えているのではないでしょうか。
しかし、ウクライナ人を雇用するにあたっては、平均賃金や主要産業だけでなく、避難民の在留資格についても把握しておく必要があります。
本記事では、ウクライナの基礎知識や採用のメリット、雇用時の注意点を紹介します。ウクライナ人の採用を検討しているなら、ぜひ参考にしてください。
1. ウクライナの基本情報|平均賃金・主要産業・在留資格
ウクライナは、ロシアやベラルーシ、ポーランドなどと国境を接している東欧の国です。
ロシア帝政時代から「欧州の穀倉地帯」とも呼ばれるほど肥沃な黒土に覆われており、小麦やトウモロコシなどの主要作物が多く生産されています。
IT産業などの先端分野で急成長を遂げている国でもありますが、近年では政治的・社会的に不安定な状況が継続中です。
ここでは、ウクライナ人を採用する際に知っておきたい主要産業や平均賃金、在留資格について解説します。
(1) ウクライナの平均賃金
ウクライナの平均賃金は、月収でおよそ450ドル(6.8万円前後)と、日本より低い水準といえます。
ただし、地域や職業によって、平均賃金は大きく異なる点に注意が必要です。
首都や大都市では全国平均を上回る一方、農村部ではそれを下回る傾向にあります。
職業においては、IT専門職の平均月給が1,500ドル~3,000ドル(22.8万円〜45.7万円前後)と高水準です。
一方で、農業従事者やウエイターなどは200ドル~400ドル(3万円〜6万円前後)と全国平均を下回っており、賃金の格差が大きい国であるといえるでしょう。
(2) ウクライナの主要産業
ウクライナの経済は複数の分野で成り立っています。特に注目されるのは以下の3つです。
- IT産業
- 農業
- 重工業・鉱工業
ウクライナは旧ソ連時代より核開発や原子力発電、航空宇宙分野の研究が進められていたため、もとより理系教育が進んでいた国でもあります。
キーウ工科大学をはじめとする高等教育機関から多くのIT人材が輩出されており、優秀なITエンジニア・プログラマーも多い傾向です。
農業においてはチェルノーゼムと呼ばれるほど肥沃な土壌から、小麦やトウモロコシ、ヒマワリといった農作物の生産が盛んです。
また、国土には鉄鉱山や広大なドネツ炭田もあり、石炭・石油・マンガン・鉄などの鉱物資源も豊富にあります。
鉄鉱石を活用した鉄工業も主要産業のひとつ。造船や航空・宇宙ロケットなどの製造業も活発です。
(3) ウクライナ人が持つ主な在留資格・就労ビザ
下表は、2024年6月の日本政府統計データによるウクライナ人の在留資格・就労ビザの人数です。
在留資格 | 人数 |
教授 | 23 |
芸術 | 3 |
宗教 | 1 |
高度専門職合計 | 18 |
経営・管理 | 8 |
研究 | 6 |
教育 | 2 |
技術・人文知識・国際業務 | 230 |
企業内転勤 | 4 |
興行 | 32 |
技能 | 4 |
特定技能合計 | 2 |
技能実習合計 | 2 |
文化活動 | 12 |
留学 | 224 |
研修 | 1 |
家族滞在 | 100 |
特定活動 | 1,108 |
永住者・定住者・配偶者等 | 2,377 |
総数 | 4,157 |
2025年2月現在、ロシアによるウクライナ侵攻の影響を受け、2,700人以上のウクライナ避難民が日本に入国しています。
避難民には「短期滞在」の在留資格が付与されますが、変更手続きをすれば「特定活動(1年)」の在留資格での就労が可能です。
そのため、現在の日本では特定活動の就労ビザで働くウクライナ人が多くを占めています。
次に多いのは、専門性の高い業務に就く人材が取得できる「技術・人文知識・国際業務」の在留資格です。
ウクライナから来た優秀なITエンジニア・プログラマーなども、日本で活躍しています。
2. ウクライナ人を採用するメリット
ウクライナ人採用のメリットは、主に3つあります。
- 優秀なITエンジニアを確保できる
- 英語・ロシア語が堪能な人材が多い
- モチベーションが高い
優秀で語学力の高い、意欲的なITエンジニアを確保できるのは、企業の成長を加速させる力となるでしょう。
(1) 優秀なITエンジニアを確保できる
ウクライナはプログラマーやエンジニアなどIT人材の育成が盛んな国です。C++やJavaScript、Scalaを扱えるプログラマーも多いとされています。数学や物理などの理系分野に強い人材が多く、ソフトウェア開発やAI、ビッグデータ解析など、幅広い分野で活躍が期待できるでしょう。
海外のIT企業との連携も盛んであり、グローバルな視点を持つエンジニアが多いのも特徴です。最新技術に対する感度が高く、新しい技術を積極的に取り入れる姿勢は、企業の技術革新を促進するでしょう。
(2) 英語・ロシア語が堪能な人材が多い
ウクライナの公用語はウクライナ語ですが、ロシア語も広く使用されています。また、ITエンジニアには英語が堪能な人材が多いともいわれており、英語・ロシア語の両方を話せる人材も珍しくありません。
グローバル展開を視野に入れている企業にとって、語学力は大きなアドバンテージとなります。海外とのコミュニケーションを円滑に進められるだけでなく、海外市場の調査やマーケティングなど、幅広い業務で活躍してくれるでしょう。
(3) モチベーションが高い
日本で働きたいと思うウクライナ人の多くは、能力が高く、モチベーションが高い傾向にあります。
また、ウクライナとは異なる文化や環境への対応能力も高く、海外で自分の力を活かしたいと思う人材も豊富です。
不安定なウクライナ情勢により、日本に来てより良い生活基盤を築こうとする意欲が強い人材も少なくありません。
高いモチベーションを維持しながら仕事に取り組む姿勢は、チーム全体の生産性向上にもよい影響を与えるでしょう。
3. ウクライナ人を雇用する際の注意点|気を付けるべきポイント
優秀なIT人材が多いウクライナ人ですが、雇用する際には次の3点に注意が必要です。
- 避難民の場合、在留資格「特定活動」への変更申請は必要
- 言語の壁に配慮する
- 仕事に対する価値観の違いを把握する
(1) 避難民の場合、在留資格「特定活動」への変更申請は必要
ウクライナから避難するために日本へ入国した人には「短期滞在」の在留資格が付与されます。
しかし「短期滞在」の在留資格での就労は認められておらず、滞在期間も90日以内と制限がある点に注意が必要です。
避難民として入国後、日本で働きたい場合には在留資格を「特定活動」へ変更する必要があります。
ウクライナ人材に限らず、外国人を採用する際は不法就労にならないよう、必ず在留資格を確認しましょう。
なお、避難民が特定活動の就労ビザを取得できた場合でも、在留期間は1年と限りがあります。
ウクライナ情勢が改善されないと認められる場合には更新が可能ですが、今後の情勢変化によっては更新できない可能性もあるので、注意しましょう。
(2) 言語の壁に配慮する
英語やロシア語が話せるウクライナ人であっても、日本語に慣れているとは限りません。
職場での日常会話や文書の読解など、日本語の習得度合いによっては業務に支障がでる可能性もあります。雇用時には業務に必要な日本語能力を確認しておき、必要に応じて日本語教育のサポートを検討しましょう。
業務マニュアルを英語・ロシア語で用意したり、翻訳ツールを導入したりする工夫がおすすめです。
従業員に対しては簡単な日本語で話しかけるよう呼びかけるよう促し、外国人従業員には日本語研修を受けられる社内環境の整備も有効な手段といえるでしょう。
(3) 仕事に対する価値観の違いを把握する
ウクライナでは、個人事業主・フリーランスとして活動しているエンジニアも多く存在します。
自由に働ける環境に慣れている人材も多く「残業が多い」「長期休暇を取得しにくい」などの企業風土は好まれない傾向にあります。
また、チームワークよりも個人を重視する性質もあり、自分の能力を認められたいと思う人も珍しくありません。
ウクライナ人に限らず、外国人採用を成功させるためにも、明確な評価基準を設け、チームの成果だけでなく個人の能力も評価できる環境作りが必要です。
4. まとめ
今回は、ウクライナ人の採用を検討している経営者・担当者に向け、知っておくべきウクライナの平均賃金や主要産業などの基本情報と採用のメリット・注意点を紹介しました。
ウクライナは、優秀なIT人材を多く輩出している国のひとつです。英語やロシア語に堪能なエンジニアが多く、ウクライナ人材の採用はグローバル化を進める企業にとって大きなアドバンテージになるでしょう。
一方で、不安定なウクライナ情勢にも配慮が必要です。避難民として来日しているケースでは、在留資格が「特定活動」に変更されているかもチェックしましょう。