近年、人材不足が深刻化する日本において、高度なITスキルを持つインド人材が注目を集めています。
即戦力としての活躍が期待できるため、インド人採用を検討している企業も多いのではないでしょうか。
しかし、インド人と日本人では文化や習慣の違いがあり、採用後のトラブルを防ぐためにも事前準備が必要です。
本記事では、インド人採用を検討している企業の担当者に向けて、インドの基本情報や採用のメリット、雇用時の注意点を紹介します。
1. インドの基本情報|平均賃金・主要産業・在留資格
インドは、14億人以上の人々が暮らす、世界一人口が多い国です。連邦公用語であるヒンディー語の他に、憲法で公認されている州の言語が21言語もある多言語国家でもあります。
近年では、カースト制度の影響を受けない業種であるIT分野において発展が目覚ましく、優秀な人材を多く排出している国です。
ここでは、即戦力としての活躍が期待されるインド人材を採用する前に知っておくべき基本情報として、インドの平均賃金や主要産業、主な在留資格を紹介します。
(1) インドの平均賃金
インドの平均賃金は、都市部と地方、職種、経験年数などによって大きく異なります。
World Salariesのデータによると、インドの平均月収は住宅や交通費などの福利厚生を含め、32,016ルピー(およそ55,000円)、平均年収は384,200ルピー(およそ665,000円)となっています。
特に首都を含むデリー市では平均年収が437,300ルピー(およそ756,000円)、IT産業が盛んなハイデラバードでは447,700ルピー(およそ774,000円)は高い水準です。
一方で、最低年収は97,760ルピー(およそ169,000円)と非常に低く、格差が大きいのもインドの特徴といえます。
インド社会には伝統的なカースト制度の影響が一部残っており、階級が低い層はなかなか低所得帯から抜け出せないのも実情です。
しかし、IT分野はカースト制度で制限されている職業に含まれていないため、カーストが低い人も努力をすれば高所得者になり得る社会になりつつあります。
(2) インドの主要産業
日本の外務省が公表しているデータでは、インドの主要産業として次の3種類が挙げられています。
- 農業
- 工業
- IT産業
インドは農業大国でもあり、米・小麦・綿花・茶など、様々な作物が栽培されています。農業は依然としてインド経済の重要な柱の一つです
工業も盛んで、自動車・機械・化学製品など、幅広い分野で発展しています。政府による「Make in India」政策も、工業の強化を後押ししている状況です。
また、インドは世界有数のIT大国でもあります。ソフトウェア開発、情報技術サービス、アウトソーシングなども盛んです。特にバンガロールは「インドのシリコンバレー」と呼ばれ、多くのIT企業が集まっています。
IT産業は日本企業との親和性が高く、日本での就労を希望するインド人ITエンジニアも少なくありません。
(3) インド人が持つ主な在留資格・就労ビザ
下表は、2024年6月の日本政府統計データによるインド人の在留資格・就労ビザの人数です。
在留資格 | 人数 |
教授 | 475 |
宗教 | 66 |
報道 | 2 |
高度専門職合計 | 1,334 |
経営・管理 | 523 |
法律・会計業務 | 3 |
医療 | 1 |
研究 | 164 |
教育 | 159 |
技術・人文知識・国際業務 | 12,908 |
企業内転勤 | 909 |
介護 | 40 |
興行 | 4 |
技能 | 7,008 |
特定技能合計 | 319 |
技能実習合計 | 884 |
文化活動 | 65 |
留学 | 1,825 |
研修 | 31 |
家族滞在 | 12,393 |
特定活動 | 1,057 |
永住者・定住者・配偶者等 | 15,371 |
総数 | 51,345 |
日本で働くインド人が所有する在留資格のうち、最も多いのは「技術・人文知識・国際業務」です。
ITエンジニアのような専門的な知識や技術を活かして働く外国人が所有できるビザのため、インド人採用において最も一般的なビザといえるでしょう。
また、調理師やスポーツインストラクターなどが取得する「技能」の就労ビザを所有する人が多いのも、インド人材の特徴のひとつ。
インド料理店やカレー専門店などで調理師として働くインド人も、非常に多いといえるでしょう。
2. インド人を採用するメリット
インド人の採用が生むメリットとして、主に次の3点が挙げられます。
- 技術力が高いIT人材が多い
- コミュニケーションスキルが高い
- 柔軟性と決断力を持ち合わせている
(1) 技術力が高いIT人材が多い
インドは世界有数のIT大国であり、プログラミングやデータサイエンスに精通した優秀な人材が豊富です。大学教育のカリキュラムが充実しており、理工系分野を専門とする学生が多く輩出される構造になっています。
英語資料を難なく読解できる点も、日本企業にとっては大きなメリットといえるでしょう。
欧米のIT企業との取引経験があるエンジニアも少なくありません。
最先端の技術情報や新しいアイデアを積極的に取り入れるインド人材の姿勢は、技術革新を加速させ企業の競争力強化に役立つでしょう。
(2) コミュニケーションスキルが高い
インドは多言語国家であり、公用語の一つとして英語が広く通じる国です。インド人エンジニアのおよそ90%が英語を話せるといわれています。
海外の顧客や企業とのやり取りでも英語による交渉がスムーズにできる点は、インド人を採用する大きなメリットといえるでしょう。
また、異なる言語や文化を持つ人々との交流も日常的に行われている国のため、コミュニケーション力が自然と磨かれているのも、インド人の強み。
異文化間のコミュニケーションにおいても良好な人間関係を築ける傾向にあるため、チームでの仕事もスムーズに進められるでしょう。
(3) 柔軟性と決断力を持ち合わせている
インドは、多様な価値観や宗教、生活習慣が混在している社会です。日常的に変化や調整に対応する力が求められる環境で育ったインド人には、柔軟性や臨機応変な思考が備わっている傾向があります。
突発的なトラブルや新規プロジェクトに対しても、恐れることなく柔軟なアイデアを提案してくれるでしょう。
また、インド人は「変化」に慣れており、保守的気味な日本人とは異なり、物事をすぐに決断する傾向があります。
困難な状況においても迅速に判断し、プロジェクトを成功に導いてくれるでしょう。
3. インド人を雇用する際の注意点|気を付けるべきポイント
メリットの多いインド人採用ですが、文化的背景や価値観の違いなどにも配慮しましょう。
ここでは、特に注意が必要な4つのポイントを紹介します。
- 時間にルーズな側面がある
- 個人主義で成果重視の傾向がある
- インドではIT人材の待遇が手厚い点を考慮する
- 文化的な違いに配慮する
(1) 時間にルーズな側面がある
インド人は日本人と比較すると、時間にルーズな一面があるといわれています。会議や打ち合わせに遅刻したり、納期を守らなかったりするケースもあるので、注意が必要です。
インド人社員に対しては、事前に日本の時間感覚やビジネス文化を理解してもらうための研修をする必要があるでしょう。
具体的な納期やスケジュールを明確に伝え、進捗状況を定期的に確認する対策も有効です。
時間のトラブルを防ぐ工夫をするだけでも、インド人材と円滑に仕事ができる効果が見込めます。社内の環境整備をしておけば、人材不足をストレスなく補えるでしょう。
(2) 個人主義で成果重視の傾向がある
インド人は一般的に、成果を重視する傾向があります。日本人よりも目に見える「結果」を重視する人が多いため、正当な評価ができるよう明確な基準を設けておくとよいでしょう。
日本人とはやや異なり、個々の役割を尊重しながら働くスタイルが一般的で、チームワークよりも個人の成果に重点を置く人も少なくありません。
他人からのタスクの干渉は好まれない可能性がある点に、注意しましょう。
ただし、個人が与えられた役割を果たし、一つのビジョンに向かってプロジェクトを成功に導ける性質を持っているのは、インド人材の強みでもあります。
足並みをそろえて協力するというスタンスではありませんが、同じ目的に向かって進めるので、チームでの仕事も遂行しやすいでしょう。
(3) インドではIT人材の待遇が手厚い点を考慮する
インドではIT人材の待遇が手厚く、給与水準も高い傾向にあります。日本で働くインド人ITエンジニアに対しても、適切な給与や福利厚生を提供する必要があるでしょう。
給与が低すぎると、優秀な人材の確保が難しくなるだけでなく、早期退職のリスクも高まります。成果に対して正当な報酬を支払うよう、明確な評価基準を設けましょう。
また、キャリアパスや研修制度を充実させ、将来像を明確に示すのも効果的です。
インド人材は、成長の機会を求める人が多い傾向にあります。企業として「ここで働けば、自分のキャリアがどう変わるのか」を具体的に打ち出せば、意欲や定着率の向上に役立つでしょう。
(4) 文化的な違いに配慮する
インドは、多種多様な文化・宗教が共存する国です。日本との文化的な違いを理解しお互いを尊重できるよう、職場環境を整えましょう。
例えば、宗教上の理由で特定の食べ物を食べられない、特定の時間にお祈りをしたいなどの要望に対し、配慮する必要があります。
インド人に限らず、宗教行事のために休暇取得を申し出る外国人材も珍しくありません。
プライベートを大切にするインド人も多いため、就業規則や勤務形態に柔軟性をもたせておくと対応しやすくなります。
また、インドには未だカースト制度という身分制度が根強く残っている点も理解しておく必要があるでしょう。
IT分野はカースト制度の影響を受けないため、身分が低いとされていた人たちにとって、努力すれば大きくお金を稼げる夢の職業でもあります。
優秀なIT人材でも「カーストの身分を明かしたくない」と考え、フルネームを教えたがらないインド人も珍しくありません。
身分に関係なく仕事ができると理解してもらえるよう、信頼関係を構築できる環境整備も大切です。
4. まとめ
本記事では、インド人採用を検討している企業担当者に向け、インドの基本情報から、採用のメリット・注意点を紹介しました。
IT分野で目覚ましい発展を遂げているインド人採用は、日本企業の人材不足を解消し、技術革新を加速させる有効な手段です。
一方で、円滑に仕事を進めるためには、時間管理や文化・習慣の違いに対する配慮も必要です。
優秀なIT人材の多いインド人は、日本で即戦力として多く活躍しています。相互理解を深められるよう社内環境を整えれば、日本の人材不足を補う有効な手段となるでしょう。