「優秀な外国人を採用したい」と考えているなら、高い英語力を持ち建設的な議論を好むイギリス人の雇用が適しています。
しかし、イギリス人と日本人では言語以外にも文化や価値観の違いがあるため、トラブルを防ぐためにも、事前の準備が必要です。
そこで、イギリス人の採用を検討する際に役立つ基本情報として、平均賃金や主要産業、採用のメリット、雇用時の注意点を紹介します。
1. イギリスの基本情報|平均賃金・主要産業・在留資格
イギリスは、世界最古の議会制民主主義の国であり、伝統や文化を重んじる人が多い傾向にあります。
オックスフォード大学やケンブリッジ大学など、世界トップレベルの大学を有しており、優秀な人材が多い一方で、獲得競争が激しい点も特徴です。
ここでは、即戦力となり得るイギリス人材を採用する前に知っておくべきイギリスの基本情報として、イギリスの平均賃金や主要産業、所有している在留資格について紹介します。
(1) イギリスの平均賃金
イギリス国家統計局の公表データによると、2024年11月におけるイギリスの平均週給は総収入で705ポンド(およそ135,000円)です。月収に換算すると約3,021ポンド(およそ58万円)になります。
国税局の「令和4年分 民間給与実態統計調査」によると、日本の平均年収は458万円、月収にするとおよそ38万円です。イギリスは、日本よりも平均賃金の水準が高いことがわかります。
また、イギリスは年齢により最低賃金が異なる点が特徴のひとつです。毎年4月1日に変更されるため、最低賃金については毎年確認する必要があります。
2025年4月の最低賃金は、下表を参考にしてください。
年齢 | 2025年4月〜最低賃金(£) ※円は2025年2月2日時点のレート |
21歳以上 | £12.21(約2,348円) |
18〜20歳 | £10.00(約1,923円) |
18歳未満 | £7.55(約1,451円) |
見習い ※以下いずれかに該当する人 ・19歳未満 ・19歳以上で、見習い期間1年目 | £7.55(約1,451円) |
(2) イギリスの主要産業
日本の外務省が公表しているデータでは、イギリスの主要産業として次の6種類が挙げられています。
- 自動車・航空機
- 電気機器
- エレクトロニクス(電子工学)
- 化学
- 石油・ガス
- 金融
製造業ではロールス・ロイスのような高級車ブランドをはじめとする自動車業が有名です。
また、ロンドンは世界有数の金融都市として知られ、投資銀行や保険会社などが数多く集結しています。ITやテクノロジー分野も成長が著しく、複数の企業が拠点を置いている都市でもあります。
そのほか、観光業も盛んです。歴史的な建築物や文化遺産も多く、世界各国から観光客が訪れています。
(3) イギリス人が持つ主な在留資格・就労ビザ
下表は、2024年6月の日本政府統計データによるイギリス人の在留資格・就労ビザの人数です。
在留資格 | 人数 |
教授 | 344 |
芸術 | 22 |
宗教 | 52 |
報道 | 11 |
高度専門職合計 | 350 |
経営・管理 | 327 |
法律・会計業務 | 19 |
医療 | 1 |
研究 | 31 |
教育 | 1,537 |
技術・人文知識・国際業務 | 3,431 |
企業内転勤 | 128 |
介護 | 2 |
興行 | 103 |
技能 | 67 |
特定技能合計 | 6 |
文化活動 | 40 |
留学 | 1,067 |
研修 | 1 |
家族滞在 | 950 |
特定活動 | 641 |
永住者・定住者・配偶者等 | 10,457 |
総数 | 19,587 |
技術・人文知識・国際業務の就労ビザを所有しているイギリス人が最も多く、ITエンジニアや通訳などの多くのスペシャリストが日本で活躍しています。
また、教育ビザを持つイギリス人も多く、日本の小学校、中学校、高校などで英語を教える教師も珍しくありません。
一方で、技能実習で働くイギリス人はおらず、特定技能の就労ビザを持つイギリス人は6人と、少数にとどまっています。
就労ビザをもつイギリス人のほとんどが、日本で即戦力として働いているといえるでしょう。
2. イギリス人を採用するメリット
イギリス人の採用が生むメリットとして、主に次の3点が挙げられます。
- 英語対応能力が向上する
- 建設的な議論・意見交換が活発になる
- 優秀な人材を確保できる
(1) 英語対応能力が向上する
イギリスは英語の本場。ネイティブスピーカーの採用により、社内の英語コミュニケーションが活発になり、企業全体の英語力向上効果が見込めます。
海外顧客や海外支社とのコミュニケーションが円滑になり、取引範囲の拡大も実現可能です。
英語力を活かした販促資料やプレゼンテーションも強化できるため、海外進出の準備が整いやすく、グローバルなサービス展開もしやすくなるでしょう。
(2) 建設的な議論・意見交換が活発になる
イギリス人は、建設的な議論や意見交換を好む傾向があります。
自らの意見を根拠と共に伝え、他者の主張にも耳を傾ける文化が根付いており、日本の文化とは異なる視点も加わることで、活発で有意義な議論の場を提供できます。
日本人の社員にとってもよい刺激となり、会議やブレーンストーミングなどの場においても、新たなアイデアを生む起爆剤となるでしょう。
(3) 優秀な人材を確保できる
イギリスは世界的に見ても教育水準が高く、優秀な人材が豊富です。イギリスにある複数の大学は世界ランキングでも上位に位置しており、質の高い教育を受けた人材を確保できるでしょう。
また、イギリスの国内就職市場は競争が激しく、実力主義の考え方が定着しているため、高度なリサーチ力やプレゼンテーション力を身につけている人材も珍しくありません。
グローバルな視点と専門知識を持つ優秀なイギリス人材は、企業の競争力向上に貢献するでしょう。
3. イギリス人を雇用する際の注意点|気を付けるべきポイント
メリットの多いイギリス人採用ですが、文化的背景や法律面での違いなどに配慮が必要です。
ここでは、特に注意が必要な3つのポイントを紹介します。
- 性別や宗教、人種に対する差別に注意する
- 国民性・言語の違いによる誤解を防ぐ
- 業務・報酬に対する価値観の違いに配慮する
(1) 性別や宗教、人種に対する差別に注意する
イギリスは多民族社会であり、差別や偏見に対し非常に敏感です。
ジェンダーや宗教、人種を理由とする不当な扱いには厳格で、差別禁止のガイドラインを明確に示している企業も珍しくありません。
日本ではあまり問題にならないような言葉でも、イギリス人にとっては「ハラスメント」と感じる可能性もあります。
イギリス人を雇用する際は、多様性を尊重しあらゆる従業員が安心して働ける環境の整備が必要です。
定期的にハラスメント研修を実施したり、相談窓口を設けたりなどの対策をしておきましょう。
(2) 国民性・言語の違いによる誤解を防ぐ
イギリス人は、意見交換の場を大切にしつつ、プライバシーや個人の時間も重視する人が多い傾向にあります。
日本の「暗黙の了解」や根回し文化が伝わりづらいため、業務指示や社内ルールは明確に伝えましょう。
また、業務に対する責任感は強いものの、残業を過度に強いるとトラブルに発展する可能性があります。文化や国民性の違いを理解し、お互いを尊重できる職場環境作りも重要です。
言語面でも英語のニュアンスや日本語の曖昧表現に差があるため、通訳や翻訳ツール、英語研修などを導入するとよいでしょう。
(3) 業務・報酬に対する価値観の違いに配慮する
イギリス人は実力主義的な考え方をする人が多く、能力や実績に見合った報酬を重視する傾向にあります。
例えば、日本の企業文化にある「年功序列」に戸惑う人も少なくありません。
明確な評価制度や目標管理システムを導入し、イギリス人を含む全社員が納得して働ける環境整備をしましょう。福利厚生の充実やキャリアアップの機会を設けることも、モチベーションや定着率のアップに効果的です。
また、ワークライフバランスを尊重する人が多いため、過度な残業や休日出勤を受け入れられない可能性がある点にも、配慮する必要があるでしょう。
4. まとめ
今回は、イギリス人の雇用について知っておくべき基本情報や採用のメリット、注意点を紹介しました。
イギリス人は高度な教育を受けた優秀な人材が多く、採用により社内の英語力向上や建設的な議論の活発化などの効果が期待できるでしょう。
一方で文化や価値観の違いにより、トラブルが発生する可能性があります。差別やハラスメントの問題にも敏感であるため、研修の実施や社内制度の整備などの準備も必要です。
相互理解を深められるよう、イギリス人材だけでなく他の従業員も円滑に働ける環境を整えることが、外国人採用の成功にもつながるでしょう。