自社で採用した外国人労働者が結婚するとき、社会保険・厚生年金の手続きや在留資格の確認など、会社側でも必要な手続きがあります。
適切に対応しないと、場合によっては給与支払いの遅延や不労就労などのトラブルが発生するリスクがあるので要注意です。
本記事では、外国人を採用する企業が知っておくべき外国人同士の結婚で適用される法律や結婚後の在留資格について解説します。
1:採用した外国人が結婚する場合は「法の適用に関する通則法」が適用される
外国人が日本で結婚する場合、日本の民法だけでなく「法の適用に関する通則法」が適用される点に注意が必要です。
ここでは、外国人同士が結婚する場合と外国人と日本人が結婚する場合について、適用される法律を紹介します。
(1) 外国人同士が結婚する場合
外国人同士が結婚する場合、原則として、当事者の本国法(国籍を有する国の法律)が適用されます。
例えば、中国籍の男性とベトナム籍の女性が日本で結婚する場合を考えてみましょう。
中国とベトナムの婚姻年齢に関する法律要件は、中国では男性は満22歳以上、ベトナムでは女性は満18歳以上です。
そのため、中国籍男性は満22歳以上、ベトナム籍女性は満18歳以上でないと結婚はできません。
ただし、結婚の手続き方法は「結婚の手続きを行った場所の法律」が適用されます。日本で結婚の手続きを行う場合は、日本の法律に従って婚姻届の提出が必要です。
(2) 外国人と日本人が結婚する場合
外国人と日本人が結婚する場合、結婚の成立要件はそれぞれの本国法が適用されます。
また、外国人側は母国の要件を満たしているかを確認するために「婚姻要件具備証明書」の提出が必要です。
婚姻要件具備証明書の制度のない国の場合、大使館へ行き「宣誓書」を入手しましょう。
なお日本で結婚の手続きを行う場合は、市区町村へ必要書類と婚姻届の提出が必要です。
2. 外国人労働者の結婚における会社が行う必要な手続き
外国人労働者が結婚した場合、会社が行うべき手続きがあります。
ここでは特に注意すべき社会保険・厚生年金の手続きと名前の変更手続きについて解説します。
(1) 社会保険・厚生年金の手続きに注意
外国人労働者が結婚した場合でも、社会保険や厚生年金の手続きは日本人が結婚する場合と基本的に変わりません。
ただし、配偶者を扶養に入れる場合は、配偶者の在留資格を確認し、適切な手続きをする必要があります。
日本国内に在住している配偶者を健康保険・厚生年金の扶養に入れる場合は「被扶養者(異動)届」「国民年金第3号被保険者関係届」を提出しましょう。
なお、外国籍同士の結婚で配偶者を「家族滞在」の在留資格に変更する場合、配偶者は「資格外活動許可」を取得すれば週28時間までのパート・アルバイトが可能です。
配偶者の年収が130万円を超過している場合、社会保険の扶養範囲外となるため、配偶者の年収も確認しましょう。
(2) 名前の変更手続き
結婚によって、外国人労働者の名前が変わる場合には、次の書類について名前の変更手続きが必要です。
- 雇用契約書
- 給与振込先の口座名義
- 社員名簿
給与の支払い遅延やトラブルを迅速に解決できないなどのリスクを避けるためにも、従業員の名前変更は速やかに行いましょう。
なお、健康保険・厚生年金保険の名前変更については、原則的に手続きは不要です。
ただし、次のケースに当てはまる場合は「健康保険・厚生年金保険 被保険者氏名変更(訂正)届」を提出しましょう。
- マイナンバーと基礎年金番号が結びついていない
- 健康保険(全国健康保険協会管掌)のみに加入している
(マイナンバーと基礎年金番号が結びついている場合も手続きが必要) - マイナンバーを有していない海外居住者
- 短期在留外国人
3. 結婚したら外国人労働者の在留資格はどうなる?
外国人労働者でも、結婚したからといって必ずしも在留資格を変更しなければならないとは限りません。
しかし、変更手続きが必要なケースもあるので注意が必要です。
トラブルを防ぐためにも、結婚によって在留資格の変更が必要なケースと、変更手続きが不要なケースについて確認しておきましょう。
(1) 在留資格の変更が不要なケース
外国人労働者が結婚した場合でも、就労系の在留資格で働いている場合は在留資格の変更が不要です。
例えば「技術・人文知識・国際業務」や「特定技能2号」の就労系の在留資格で在留している外国人労働者が結婚した場合、在留資格を変更する必要はなく、引き続き同じ在留資格で働けます。
「技能実習」や「特定技能1号」の場合も、在留期限までは在留資格を変更しなくても就労が可能です。
(2) 在留資格の変更が必要なケース
次のようなケースでは、結婚によって在留資格の変更が必要になります。
- 退職して無職になる場合
- 「日本人の配偶者等」に変更したい場合
退職して無職になる場合、在留期間が残っていても就労ビザでの日本滞在はできません。「家族滞在」へ在留資格を変更するよう、促しましょう。
在留資格の変更手続きは外国人労働者自身が行うものですが、会社側も在職証明や収入証明などの必要書類の用意に協力する必要があります。
また、日本人との結婚の場合には「日本人の配偶者等」への在留資格変更が可能です。
活動の制限がなくなり、在留期間は5年・3年・1年・6か月のいずれかとなりますが、更新回数の上限はありません。
より自由に日本で働けるようになりますが、日本人であるパートナーと離婚したり死別したりした場合は帰国するか在留資格の変更が必要になる点に注意しましょう。
4. 企業が知っておくべき外国人材が結婚した場合の注意点
外国人労働者の結婚に際して、会社側が把握しておくべき注意点は次の3点です。
- 在留資格が適正に変更されたかを確認
- 福利厚生・長期休暇などは就業規則通りに手続き
- 労働条件の変更が必要になる可能性
(1) 在留資格が適切に変更されたかを確認
外国人労働者が結婚によって在留資格を変更した場合、変更手続きが適正に行われたかを確認しましょう。
変更手続きが適切に行われていない場合、不法就労となるリスクがあります。
在留カードの提示を求め、在留資格や在留期間、就労制限の有無などを確認してください。
もし変更手続きに不備がある場合は、外国人労働者本人に対応方法を説明し、必要に応じて弁護士や行政書士などの専門家に相談しましょう。
(2) 福利厚生・長期休暇などは就業規則通りに手続き
結婚に伴い、外国人労働者が福利厚生や長期休暇を申請した場合、就業規則に基づき、日本人労働者と同様の公平な対応をしましょう。
結婚休暇や有給休暇、賃金規定などの制度がある場合は、外国人労働者にも説明する必要があります。外国人労働者が理解しやすいように、多言語で説明資料を作成しておくとスムーズです。
(3) 労働条件の変更が必要になる可能性
結婚によって外国人労働者の生活状況が変わり、勤務時間や場所などについて労働条件の変更を求められる可能性があります。
配偶者の都合で引っ越しが必要になったり、子育てのために時短勤務を希望したりする場合には、必要に応じて労働条件を見直しましょう。
労働条件の変更は、就業規則や労働契約に基づき、適切に行う必要があります。
労働条件の変更内容については、外国人労働者にわかりやすい言語で書かれた書面で合意書を作成しておくと、後々のトラブルを防げるでしょう。
5. まとめ
今回は、外国人の結婚に関する手続きや注意点について解説しました。
外国人同士が結婚した場合、会社として対応が必要な手続きがあります。扶養に関する手続きだけでなく、名前の変更に伴う社内手続きも忘れずに行いましょう。
場合によっては、不労就労を防ぐために在留資格の確認も必要です。また、結婚に伴う長期休暇や福利厚生の利用を求められたら、日本人と同様に就業規則に従って手続きしましょう。