2027年に施行予定の「育成就労制度」は、現行の技能実習制度の問題点を見直し、日本の人手不足を解消する制度です。
外国人採用を検討しているなら「技能実習制度となにが違うの?」と疑問に感じる人も多いのではないでしょうか。
今回は育成就労制度について、技能実習制度・特定技能との違いや移行期間、企業側・外国人労働者側のメリット・デメリットについて紹介します。
1. 育成就労制度とは?技能実習制度との主な違い
育成就労制度とは、従来の技能実習制度を抜本的に見直し、外国人労働者の育成に重点を置いた、2027年施行予定の新制度です。
ここでは、新しい外国人労働者の受け入れ制度として注目を集めている、育成就労制度の概要や技能実習制度との主な違いについて詳しく解説します。
①育成就労制度の概要と受け入れ対象分野・職種
育成就労制度は、外国人労働者が日本の企業で働きながら、技能や知識を習得し、キャリアアップを目指すことを目的とした制度です。
従来の技能実習制度と比較して、より質の高い育成を目指し、外国人労働者のキャリア形成を支援する点を重視しています。
受け入れ対象分野は、次の特定技能制度の受入れ分野のうち、就労を通じた技能修得が相当のものとされ、現行の技能実習制度より専門性の高い職種が対象となる見込みです。
- 介護
- ビルクリーニング
- 工業製品製造業
- 建設
- 造船・舶用工業
- 自動車整備
- 航空
- 宿泊
- 自動車運送業
- 鉄道
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
- 林業
- 木材産業
ただし、2025年1月現在においては具体的な対象分野・職種は未定です。
②制度導入の背景と目的
育成就労制度導入の背景には、技能実習制度の課題に対する反省があります。
そもそも技能実習制度とは、外国人労働者へ日本の技能を伝え、母国に技術・知識を持ち帰り役立てる「国際貢献」が目的でした。
しかし実際には労働力不足を補うための手段として利用されるケースが多く、外国人労働者の人権侵害や低賃金労働といった問題が指摘されています。
育成就労制度は技能実習制度の反省を活かし、海外人材を育成しつつ日本の人手不足解消を目指した制度です。
また、日本が働きやすい国として選ばれるよう、外国人労働者の権利保護や待遇改善も目的のひとつとなっています。
③現行の技能実習制度との主な違い
育成就労制度と現行の技能実習制度の主な違いは、以下の通りです。
技能実習制度 | 育成就労制度 | |
目的 | ・開発途上国への技能移転 (国際貢献技能の習得) ・技能の習得 | ・外国人労働者の育成 (日本の産業界への貢献) ・人手不足の解消 ・技能・知識の習得とキャリアアップ |
在留資格 | 技能実習 | 特定技能(1号、2号)への移行を前提とした育成型在留資格(新設) |
育成プログラム | 定期的な講習や試験が義務付けられているものの、育成内容の自由度が高い | 企業が作成した育成計画に基づき、体系的な育成プログラムを実施。計画の適正性が求められる |
労働条件 | 最低賃金、労働時間などの基本的な労働基準法を遵守 | 技能レベルやキャリアアップに応じて、より良い労働条件を提供する努力義務が発生 |
人権保護 | 人権侵害や低賃金労働といった問題が指摘されてきた | 人権尊重を重視し、適切な労働環境を整備する努力義務が発生 |
受け入れ期間 | 最長5年 | 特定技能への移行を前提とするため、特定技能1号、2号の在留期間を含めると長期滞在が可能となる |
現行の技能実習制度は技能の習得が主目的であったのに対し、育成就労制度は技能習得後、日本で働いてもらうことを目的としています。
また、外国人労働者が低賃金・長時間労働などの不当で過酷な環境での労働とならないよう「転籍」が認められる点を含め、技能実習制度よりも人権問題にも配慮した内容です。
育成就労制度で育成された人材は特定技能1号へと移行できますが、技能検定試験や日本語能力試験の合格が必要となる点にも注意しましょう。
④現行の特定技能制度との主な違い
特定技能制度と育成就労制度は、どちらも日本の人手不足・人材不足を補う目的の制度です。
しかし、特定技能制度は即戦力の外国人材を受け入れるための制度である一方、育成就労制度は未経験者の受け入れも可能な点で異なります。
育成就労制度は、特定技能制度へのスムーズに移行できるよう、外国人材を育成することが目的のひとつ。特定技能1号の在留資格取得に必要な技能レベルを育成する役割を担います。
また、より高度な技能を習得した外国人は、特定技能2号への移行も可能です。
項目 | 特定技能制度 | 育成就労制度 |
目的 | ・人手不足の解消 ・即戦力としての人材確保 | ・外国人労働者の育成と特定技能への移行促進 ・育成に重点を置き、特定技能レベルまで段階的に育成 |
対象 | 一定の技能を有する外国人労働者 | 技能・知識習得を目指す外国人労働者 |
在留資格 | 特定技能1号、2号 | 特定技能への移行を前提とした育成型在留資格(新設) |
労働条件 | 日本人と同等の労働条件 | 技能レベルやキャリアアップに応じて、より良い労働条件を提供する努力義務が発生 |
受け入れ期間 | 特定技能1号:最長5年 特定技能2号:上限なし | 最長3年 ※最終的に特定技能2号まで移行すれば上限なし |
2. 技能実習制度から育成就労制度への移行期間
育成就労制度は、現行の技能実習制度から段階的に移行していく予定です。
育成就労制度は、2027年を目途に施行となる見込みとなっています。具体的な開始時期や移行期間のスケジュールについては、今後政府から詳細な情報が発表される予定です。
現在、政府により公表されているスケジュールについては、下表を参考にしてください。
2024年〜2025年 | 基本方針、主務省令等の作成 |
2025年〜2026年 | 分野別運用方針の作成育成就労産業分野の設定等 |
2026年〜2027年 | 事前申請↓改正法施行 |
なお、現行の技能実習生は、一定の条件を満たせば経過措置により引き続き技能実習を行えます。
3. 育成就労制度のメリット・デメリット
育成就労制度は、受け入れ企業にとっては継続的な人材確保ができること、外国人労働者にとっては日本で安定した職を手に入れられる点がメリットといえます。
しかし現行の技能実習制度にはないデメリットもあるので注意が必要です。ここでは育成就労制度のメリット・デメリットについて、企業側・外国人労働者側別に紹介します。
①受け入れ企業側のメリット
受け入れ企業側の主なメリットは、次のとおりです。
メリット | |
優秀な人材の育成 | 体系的な育成プログラムを通じて、自社のニーズに合った高度な技能を持つ人材を育成できる |
日本語力が高い人材 | 育成就労制度を利用するには、日本語能力試験に合格する必要があるため、日本語でのコミュニケーションが取りやすくなる |
定着率の向上 | 技能やキャリアアップを支援することで、外国人労働者の定着率を高められる |
企業イメージの向上 | 外国人労働者の育成や人権保護に積極的に取り組む企業として、社会的な評価を高められる |
キャリアアップを支援しつつ育成できるため、自社に必要で優秀な人材を確保できます。
また、国際的・社会的に人権保護に取り組む企業として、企業イメージの向上効果も期待できるでしょう。
一方のデメリットとしては、次の3点が挙げられます。
デメリット | |
育成コストの増加 | 育成計画の策定や研修の実施など、技能実習よりも育成にかかるコストが増加する |
事務手続きの増加 | 育成就労制度に関する新たな事務手続きが発生する可能性がある |
転籍の可能性 | 技能実習制度では原則認められていない「転籍」が可能となるため、1年で退職されてしまう可能性がある |
企業としては海外人材の育成コストが技能実習以上にかかる可能性が高い点は、デメリットとなります。
また、技能実習より転籍しやすくなる点も、場合によってはデメリットとなるでしょう。
現行の技能実有でも「やむを得ない事情による転籍」は認められていますが、範囲や状況は不明確です。
しかし育成就労制度では、一定の条件を満たせば転籍が可能になります。具体的な要件は未確定ですが、現状では次のような項目が転籍要件となる予定です。
- パワハラや暴力などの人権侵害を受けた場合等の「やむを得ない事情」がある場合
- 転籍先の育成就労実施者の下で従事する業務が、転籍元の育成就労実施者の下で従事していた業務と同一の業務区分であること
- 転籍元の育成就労実施者の下で業務に従事していた期間が、育成就労産業分野ごとに1年以上2年以下の範囲内で定められる所定の期間を超えていること
- 育成就労外国人の技能及び日本語能力が一定水準以上であること
- 転籍先の育成就労実施者が適切と認められる一定の要件に適合していること
②外国人労働者側のメリット・デメリット
外国人労働者側の主なメリットは、次のとおりです。
メリット | |
キャリアアップの機会 | 日本の企業で働きながら、高度な技能や知識を習得し、キャリアアップを目指せる |
より良い労働条件 | 技能レベルやキャリアアップに応じて、より良い労働条件で働ける可能性がある |
長期的な在留 | 特定技能への移行を前提とするため、日本での長期的な在留が可能となる |
人権保護 | 従来の技能実習制度よりも人権が尊重され、低賃金・長時間労働などの不当な労働環境から守られやすくなる |
外国人労働者にとって、日本で技術を習得し、技能実習制度よりも働きやすい環境で無理なく安定して就労できる点は大きなメリットといえます。
努力次第ではより良い労働条件を目指せるだけでなく、長期的に日本で働けるため、継続して日本で稼ぎたいと考える外国人労働者にとっても嬉しい制度となるでしょう。
一方のデメリットとしては、次の3点が挙げられます
デメリット | |
育成プログラムの厳しさ | 体系的な育成プログラムに参加する必要があるため、負担が増える可能性もある |
受け入れ職種の縮小 | 技能実習制度では受け入れ可能職種が90種ほどあるが、育成就労制度では16分野程度に縮小される見込み |
転籍のハードル | 技能実習制度よりも転籍しやすくなるが、同一職種間の転籍に限定されており、職業選択の自由はない1年以上は転籍できないため、転籍のハードルは高い |
育成就労制度は、外国人労働者の特定技能への移行を目指す制度です。
そのため、外国人労働者は事前に日本語能力試験に合格する必要があり、就業後1年以内に技能検定試験基礎級の受験が求められています。
特定技能移行時にも評価試験に合格する必要があるため、技能実習制度より難易度が高い点はマイナスポイントです。
また、受け入れ職種が技能実習制度よりも大幅に減るため、選択肢が減る点も外国人労働者にとってのハードルを上げています。
技能実習制度よりも転籍はしやすくなる見込みですが、現状の方針では職業選択の自由がなく、転籍できるまで最低1年かかる点もデメリットといえるでしょう。
4. まとめ
今回は2027年中に施行予定の「育成就労制度」について、制度の概要や移行期間・スケジュール、技能実習制度の違いなどを紹介しました。
育成就労制度は、技能実習制度の課題を克服し、外国人労働者の育成に重点を置いた新たな制度です。
技能実習制度より受け入れ職種が少なくなりますが、企業側は人材不足を解消しやすくなり、外国人労働者はよりよい環境で働けるメリットがあります。
育成就労制度でスムーズに外国人労働者を受け入れられるよう、今から外国人材の受け入れ体制を整えておきましょう。