外国人労働者も社会保険に加入する必要があるのか、疑問に思う経営者・担当者も多いのではないでしょうか。
外国人労働者も、日本人とほぼ同様の条件で社会保険の加入が義務付けられています。しかし、日本人との相違点もあるので注意が必要です。
今回は、外国人労働者が加入できる社会保険の種類と加入要件などの概要を解説し、厚生年金保険について説明が必要な「社会保障協定」「脱退一時金」を紹介します。
外国人労働者は原則として社会保険加入が必要!
外国人労働者を雇用する場合、原則として日本人と同様に社会保険への加入は義務です。労働者が日本で安心して働ける環境を整えるため、法律で定められています。
加入の義務を果たさない場合、事業主に対して行政指導や罰則が科される可能性があるので注意が必要です。
ただし、社会保険の加入には適用条件があり、全ての外国人労働者が加入できるものではありません。
加入が必要かどうかは社会保険の種類により異なるので、社会保険について正しく理解した上で手続きをしましょう。
社会保険の種類と加入対象の外国人労働者
外国人・日本人の区別なく、加入できる社会保険の種類は下表の4種類、介護保険を含めると5種類となります。
社会保険の種類 | 届出書類 | 届出先 |
健康保険・介護保険 | 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届 | 日本年金機構 |
厚生年金保険 | ||
雇用保険 | 雇用保険被保険者資格取得届 (雇用保険適用事業所設置届) | 所轄の公共職業安定所 |
労災保険 | 保険関係成立届 労働保険概算保険料申告書 雇用保険被保険者資格取得届 (雇用保険適用事業所設置届) | 所轄の労働基準監督署 所轄の公共職業安定所 など |
1.健康保険・介護保険
健康保険は、労働者と労働者の扶養家族の医療費負担を軽減するための制度です。
介護保険は、40歳〜64歳までの被保険者が対象となります。加入には適用条件があり、健康保険・介護保険ともに手続きには外国人労働者のマイナンバーまたは基礎年金番号が必要です。
健康保険・介護保険の加入適用条件と外国人労働者の被扶養者として認められる要件は、下表にまとめたのでぜひ参考にしてください。
社会保険加入適用条件 | 外国人労働者の被扶養者として認められる条件 |
①1週間の所定労働時間およびが1月間の所定労働日数が一般社員の4分の3以上 ②以下の条件に全て当てはまる場合 ・1週間の労働時間が20時間以上 ・雇用期間が2か月を超える予定 ・給与が月額88,000円以上 ・学生ではない ・75歳未満 ・従業員51人以上の企業 <介護保険の場合は以下が追加> ・入管法の規定による3か月を超える在留期間が決定等されている外国人 ・40歳〜64歳までの外国人労働者 | ・外国人労働者によって生計を維持されていること ・日本国内に住所(住民票)を有していること ・被扶養者の年収要件:年収130万円 ・海外特例要件に該当するケース |
必要書類は、事業所や外国人労働者の在留資格によって異なる場合があります。外国人の採用が決まったら、加入手続きに必要な各書類をハローワークや年金事務所などに確認しましょう。
2.厚生年金保険
厚生年金保険は、労働者の老後や病気やケガなどで障害が残り働けなくなった場合に支給される年金制度です。
健康保険・介護保険とセットで加入するもののため、外国人労働者も加入しなければなりません。
加入要件は社会保険と同じですが、対象年齢のみ70歳未満と要件が引き下げられています。
なお外国人労働者は、厚生年金保険料について二重支払いを避ける「社会保障協定」や、帰国後に返金される「脱退一時金」といった制度の利用も可能です。
3.雇用保険
雇用保険は、失業時に一定の給付を受けられる制度で、外国人労働者にも適用されます。
加入要件は以下の通りで、要件を満たす場合には技能実習生も加入が必須です。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 31日以上の雇用見込みがあること
ワーキングホリデーや留学などのビザでアルバイトをしている場合、加入対象外となる場合があります。
ただし、アルバイトの場合は管轄のハローワークに「雇入れ・離職に係る外国人雇用状況通知書」提出する必要があるので注意しましょう。
4.労災保険
労災保険は、業務中の事故や通勤中の怪我に対して補償される保険です。
全ての労働者に適用されるもののため、外国人労働者の在留資格や雇用形態にかかわらず加入手続きが必要です。
また、外国人労働者は支給要件を満たせば次のような給付が受けられます。
労災保険給付の種類 | 給付が受けられるケース |
療養(補償)等給付 | 業務または通勤が原因となった傷病の療養を受けるときの給付 |
休業(補償)等給付 | 業務または通勤が原因となった傷病の療養のため、労働することができず、賃金を受けられないときの給付 |
傷病(補償)等年金 | 業務または通勤が原因となった傷病の療養開始後、1年6か月たっても傷病が治癒ぜず、障害の程度が傷病等級に該当するときの給付 |
障害(補償)等給付 | 業務または通勤が原因となった傷病が治癒し、障害等級に該当する身体障害が残ったときの給付 |
遺族(補償)等給付 | 労働者が死亡したときの給付 |
葬祭料等(葬祭給付) | 労働者が死亡し、葬祭を行ったときの給付 |
介護(補償)等給付 | 障害等年金または傷病等年金の受給者のうち、一定の障害により、現に介護を受けているときの給付 |
厚生年金保険は、社会保障協定と脱退一時金の説明が必要
厚生年金保険とは、老後や病気・ケガで障害が残り働けなくなった場合に給付される年金制度です。
帰国する前提で日本で働いている外国人の場合、日本の年金保険には加入したくないと思う人も多く存在します。
そのような外国人労働者には、社会保障協定と脱退一時金についての説明が必要です。
トラブルを防ぐためにも、雇用主は社会保障協定と脱退一時金について理解し、外国人労働者へ説明できるようにしましょう。
社会保障協定の概要と注意点
社会保障協定とは、社会保険料の二重負担を防ぐ目的で結ばれた、日本と特定の国の間で締結されている協定です。
社会保障協定を結んだ国の国籍を持つ外国人労働者は、母国または日本のいずれか一方でのみ保険料を支払う形となり、負担を軽減できます。
ただし、協定未締結国の労働者については、厚生年金保険の支払い免除は適用されません。事前に外国人労働者の母国が協定締結国であるか確認しておく必要があるでしょう。
また、手続きが遅れると二重支払いが発生する可能性があるため、迅速な対応が必要です。
2024年12月現在、日本と社会保障協定を結んでいる国は下表の23か国となります。
社会保障協定の締結国 |
ドイツ・イギリス・韓国・アメリカ・ベルギー・フランス・カナダ・オーストラリア・オランダ ・チェコ・スペイン・アイルランド・ブラジル・スイス・ハンガリー・インド・ルクセンブルク ・フィリピン・スロバキア・中国・フィンランド・スウェーデン・イタリア |
社会保障協定の取り扱いは、国によって異なる場合がある点にも注意しましょう。
脱退一時金の概要と注意点
脱退一時金は、外国人労働者が日本で一定期間以上厚生年金に加入していた場合、帰国時に支給される制度です。
日本に住所を有しなくなった日から2年以内に請求する必要があり、次の支給要件を満たす必要がある点に注意しましょう。
- 日本国籍を有していない
- 公的年金制度(厚生年金保険または国民年金)の被保険者でない
- 厚生年金保険(共済組合等を含む)の加入期間の合計が6月以上ある
- 老齢年金の受給資格期間(10年間)を満たしていない
- 障害厚生年金(障害手当金を含む)などの年金を受ける権利を有したことがない
- 日本国内に住所を有していない
- 最後に公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していない
脱退一時金の請求時には、脱退一時金請求書や基礎年金番号通知書、住民票の除票の写しなどの複数の書類が必要です。
申請を忘れてしまったり、手続きが難しく諦めてしまったりすると、受け取れるはずの一時金が失効してしまいます。
労働者に対して事前に手続き方法を案内し、書類準備のサポートも行いましょう。
外国人労働者が退職した場合にも手続きが必要
外国人労働者が退職する際にも、社会保険の脱退手続きが必要です。退職後、保険料を無駄に支払うリスクを避けるため、手続きは速やかに対応しましょう。
提出が必要な書類は主に「雇用保険被保険者資格喪失届」と「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」の2種類です。
「雇用保険被保険者資格喪失届」はハローワークに、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」は日本年金機構へ提出してください。
まとめ
今回は、外国人労働者を雇用した場合の社会保険加入について、社会保険の種類ごとに加入要件や注意点、退職時に必要な届出について紹介しました。
日本で働く外国人労働者は、原則としての社会保険へ加入する必要があります。ただし、厚生年金保険については、将来帰国する予定の場合には支払いたくないと感じる外国人労働者も珍しくありません。
トラブルを防ぐためにも、社会保障協定や脱退一時金についての説明も重要です。
外国人労働者が不利益を被らないよう、社会保険関連の手続きについても丁寧にサポートしましょう。